Makoto Kuriya
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DISCOGRAPHY
話題をさらったファーストアルバムのリリース後、100本を越えるライブを経て驚異的なインタープレイが今も進化し続けている画期的プロジェクト「アコースティック・ウェザー・リポート」。オリジナルに劣らぬ個性的なアレンジと共に、待望のセカンドアルバムをリリースした。ウェザー・リポートのほか、ジャコ・パストリアスのアルバムに収録されているチャーリー・パーカーの名曲「Donna Lee」、クリヤ・マコト作曲によるBS-TBS「報道1930」テーマ曲「Deep Insight」も収録。無編集・無修正DSDレコーディング。
1: River People リヴァー・ピープル
(Jaco Pastorius)-from『MR.GONE』
2: Donna Lee ドナ・リー
(Charles Christopher Parker Jr.)-from『JACO PASTORIUS』
3: Black Market ブラック・マーケット
(Joe Zawinul)-from『BLACK MARKET』
4: Lusitanos ルシタノス
(Wayne Shorter)-from『TALE SPINNIN'』
5: Barbary Coast バーバリー・コースト
(Jaco Pastorius)-from『BLACK MARKET』
6: Man in The Green Shirt マン・イン・ザ・グリーン・シャツ
(Joe Zawinul)-from『TALE SPINNIN'』)
7:Badia - Three Views Of A Secret(Joe Zawinul/Jaco Pastorius)
バディア~スリー・ヴューズ・オブ・ア・シークレット
-from『TALE SPINNIN'』『NIGHT PASSAGE』)
8: Between The Thighs ビトゥイーン・ザ・サイツ
(Joe Zawinul)-from『TALE SPINNIN'』)
9: Deep Insight ディープ・インサイト
(Makoto Kuriya)-BS-TBS「報道1930」テーマ曲
10: Deep Insight (reprise) ディープ・インサイト(リプライズ)
(Makoto Kuriya)-BS-TBS「報道1930」エンドテーマ曲
クリヤ・マコト (pf)、納浩一(b)、則竹裕之(ds)
ジャコ・パストリアスに触発されてベースを始め、バークリー音楽院時代にはエディ・ゴメス賞を2年連続受賞した納浩一は、エレベのようにアップライト・ベースを操る驚異的なプレイヤー。ドラムの則竹裕之はデビュー以来、日本の最高峰フュージョン・バンドT-SQUAREで長年活躍し、フィリップ・セスをして日本トップのドラマーと言わしめた名手である。リーダーのクリヤ・マコトはヨーロッパ、オーストラリア、モロッコ、エジプト、ブラジル、インドなど、世界中でライブ活動を行い高い評価を受けているピアニスト。平井堅や八代亜紀、TVテーマ曲などを手がける作曲家でもあり、BS日テレで不定期放送中の異色音楽番組「今宵☆jazzyに!」で編曲とバンドマスターを担当。本ユニットは、その番組ホスト・バンドとしても活躍中。
さらに、エリック・ミヤシロ、本田雅人というトップホーンを迎えてレコーディングしたBS-TBS「報道1930」のオープニングおよびエンディングテーマ曲を、ボーナストラックとして収録。
皆さん、お待ちかね。「アコースティック・ウェザー・リポート(AWR)」の待望の新作の登場だ。AWRとは、クリヤ・マコト(p)、納浩一(b)、則竹裕之(ds)という名手3人が集まり、1970年代フュージョンの最高峰「ウェザー・リポート」のナンバーを、あえてアコースティックだけ(生楽器)で演奏するトリビュート・プロジェクトのこと。ウェザー・リポートの曲は難しくて、セッションで取り上げられることもめったにない。本家ウェザーの音楽を彩る当時のサイケデリックな表現やカラフルな装飾を大胆に削ぎ落し、「ピアノ・トリオのジャズ」というミニマムなスタイルで楽曲のエッセンスを抽出し再構築する。この思いがけない解釈は、とても斬新だ。単にコピーするだけでなく、彼らなりの解釈で、曲によっては全くと言って良いほど原型をとどめないようなアレンジを施して演奏する。まるで、AWRのメンバーたちは、ウェザー・リポートの秘密が記された「設計図」を手にしたのではないかと思えてくるぐらいだ。また、クリヤ、納、則竹の3人は、音をとことん大切にするミュージシャンである。まるで、マイルス・デイヴィスの『カインド・オブ・ブルー』のような音の間や余韻も味わえる。そしてクリヤと納の絶妙なるアレンジが、曲を新鮮に響かせている。AWRには、超一級のプロが本気で挑んだ凄さ、面白さと楽しさがある。彼らは音質の良さを活かすため、無編集で修正皆無の超絶音響「DSDレコーディング」を行った。ハイレゾ配信に対応した音の良さも絶品である。現代は、「パンチイン+編集」(トラックの中から必要な部分を録り直して上書き)が常識になっているが、あえて、「全曲一発録り」(DSD録音)するということは、メンバー全員の常日頃の技術面の鍛錬と録音時の集中力と相当な度胸が必要である。これって、大変なことである。
さて、『アコースティック・ウェザー・リポート2』は、驚異的な作品だ。難しい曲を軽くこなし、ウェザー・リポートの豊かな楽曲に新たな光(魅力)を与えている。3人の優れた演奏とトリオの一体感には目を瞠るものがある。本作には、特徴が3つある。まず1つ目は、AWRが、全国津々浦々で数多くのライブを展開してきたこと(現在も進行中である)。2015年5月に結成され3回のツアー(2015年5月、11月~12月、2016年4月)を経て、2016年6月にアルバム(前作)を録音し、11月にリリースされた。同年12月、3回のライブを実施。2017年は、計61回のライブを実施、8月には旭川、小樽、札幌、函館と北海道まで行った。2018年は、計30回のライブを実施、3月には那覇、石垣島と沖縄まで足を運んだ。今年(2019年)4月の四万十(高知県)では、記念すべきリリース後100回目の公演を迎えた。まだ彼らが訪れてない県は、佐賀県と鹿児島県の2つしかない。しかし、近い将来ライブが実現するだろう。皆さんも、ぜひアコースティック・ウェザー・リポートのライブに足を運ぶことをお勧めする。100回のライブを越えて熟成されたAWRのライブは、最高である。3人の織りなす音空間は、緊張感とエネルギーに満ち溢れ、聴き手の心を解き放つ。メンバーは、常に自由で斬新なアプローチを試み、独自の解釈を表現する。バンドは、言葉を越えた一体感がある。電光石火の反射性、テレパシーに近い聴力と集中力を持ち、どんな微妙なニュアンスにも対応していく。彼らの一挙手一投足を観ながら、全身で浴びるように音を聴いて欲しい。2つ目は、ジャコ・パストリアスの曲が、多く起用されたこと。ウェザーの曲は、9曲収録されたが、4曲がジャコの関連曲(3曲がオリジナル)。ジャコが在籍していた時代(1976年~79年)が、「ウェザー・リポート」の全盛期だから、ジャコの曲に注力することは重要だ。3つ目は、前述した「DSDレコーディング」の音がさらに進化を遂げ、より良い音が聴けるようになったこと。クリヤ・マコト(p)、納浩一(b)、則竹裕之(ds)の各楽器の音の良さは、驚嘆に値する。目の前で演奏してくれているような臨場感は、物凄い。
本作には、ウェザー・リポートの楽曲は、9曲収録されている。『テイル・スピニン』(WR通算6作目)からは、「ルシタノス」(④4曲目)、「マン・イン・ザ・グリーン・シャツ」(⑥)、「バディア」(⑦)、「ビトゥイーン・ザ・サイズ」(⑧)の4曲。『ブラック・マーケット』(WR通算7作目)からは、「ブラック・マーケット」(③)と「バーバリー・コースト」(⑤)の2曲。『ミスター・ゴーン』(WR通算9作目)からは、「リヴァー・ピープル」(①)。『ナイト・パッセージ』(WR通算11作目)からは、「スリー・ヴューズ・オブ・ア・シークレット」(⑦)。『ジャコ・パストリアスの肖像』からは、「ドナ・リー」(②)が収録されている。
それでは、アルバムを聴いてみよう。アレンジは、クリヤ・マコトと納浩一が行った。「ドナ・リー」「バーバリー・コースト」「スリー・ヴューズ・オブ・ア・シークレット」の3曲は、納のアレンジ。残りは、すべてクリヤがアレンジしている。冒頭の「リヴァー・ピープル」は、ジャコの曲で、『ミスター・ゴーン』の収録曲。『ミスター・ゴーン』は、実験的色合いが濃いアルバムだった。原曲の「リヴァー・ピープル」は、オーヴァーダブが多用されており、猛烈にシンセが使用されたコズミックな曲だ。AWRの演奏の方がシンプルで、楽曲の良さが味わえる。曲は、則竹の16ビートのドラムから始まる。出だしのドラムスのパターンは、ジャコのあの「ティーン・タウン」と同じだ。クリヤは、漂う雲のようにゆったりメロディを奏でる。そしてソロ・ピアノのルバート部を挟んで、次の部分は、高速4ビートとなる、バンドが一体となって、強力にスイングする。演奏のキレ味を際立たせている。この曲は、なんと1テイクで録音終了した。「ドナ・リー」は、ジャコの初リーダー作『ジャコ・パストリアスの肖像』の収録曲。チャーリー・パーカーが書いた名曲をジャコが超人的な速弾きでカバーし、世界を仰天させた。納は、自己のリーダー作『琴線』にて、則竹とのデュオでこの曲を演奏した。ここでは、トリオ演奏にして、エレガントな雰囲気を出している。特にイントロのAbMaj7-EMaj7という動きはジャコが大好きな進行で、その進行が全体を支配するモチーフとなっている。納のベース・ソロとクリヤのソロが素晴らしい。リズムは、「spacy feel」な出だしの流れるようなフローティングな感じ、そしてそれに続く16ビートのフィールが心地好い。「ブラック・マーケット」は、ジョー・ザビヌルの曲。戦後まもなくのウィーンの「闇市」(ブラック・マーケット)のことをテーマにした曲。貧しい時代をザビヌル一家は懸命に生き抜いたのだ。則竹と納が奏でるファンクビート(16ビート)が、「闇市」のワイワイがやがやした雰囲気を絶妙に醸し出す。クリヤの目の覚めるような鮮やかなソロが良い。後半部の則竹のドラム・ソロも格好いい。「ルシタノス」は、ウェイン・ショーターが書いた曲。ポルトガルの丘の名前だ。南国情緒が感じられるセクシーな曲だ。静かなピアノから始まる。リズムは、Floating(流れるような)なフィールで、「ECM」サウンドに共通するもの。やがてクリヤのピアノが高らかにドラマチックに鳴り響く。納のベース・ソロも抜群である。「バーバリー・コースト」は、ジャコの曲。前半と後半に分かれている。前半は、納のベースと則竹のドラムが、はねたファンクビートを刻む。テーマに続き、リズムのやり取りが面白い。則竹のドラム・フィルが格好いい。後半は、高速4ビートで、猛烈にスイングする。「マン・イン・ザ・グリーン・シャツ」は、ジョー・ザビヌルの曲。ザビヌルが、ヴァージン諸島のセント・ジョン島で、スティール・ドラムに合わせて踊る緑のシャツを着た老人を見て作ったという。アルバムの中で、最も美しい演奏が聴ける。クリヤのピアノは、涙が出るほど綺麗だ。なんて気持ちが良いのだろう。続く納のベース・ソロも見事である。7曲目は、ザビヌルが書いた印象的な東洋的なメロディの「バディア」とジャコが書いた最高傑作「スリー・ヴューズ・オブ・ア・シークレット」をなんと組曲にしている。「バディア」から始まり、途中から「スリー・ヴューズ?」に移行し、そのテーマが終わったところから再び「バディア」に戻って、ベース・ソロが始まる。次いでテンポアップして、明るく弾けるようなクリヤのピアノ・ソロとなり盛り上がる。「ビトゥイーン・ザ・サイズ」は、ザビヌルが書いた曲。「股間からの光景」というスゴい邦題がついてるが、実はニューオーリンズのマルティグラ(謝肉祭)の光景を描いている。ウェザー・リポートは、世界のあちこちを飛び回っていたので、不思議な高揚を覚える音楽を幾つも創造している。さて、曲は、頭から強力なグルーヴ感が漂う。16ビートだが、8ビートともいえるところもある。AWRの類まれな才能が存分に発揮された曲だと確信する。音楽をバンドが、自由に生き生きと組み立てていく。音楽が、山から流れる川のように滑らかに、そして予測できない方向に向かい、多彩なサウンドとリズムを創り出している。これほどスリリングに流れる4分半が、かつてあっただろうか。「ディープ・インサイト」は、クリヤ・マコトがBS-TBSの報道番組「報道1930」のテーマに書き下ろしたオリジナルで、爽やかで知的な曲だ。9曲目の(TV Theme version)は、AWRに2管が加わったクインテットによる演奏である。トランペットのエリック・ミヤシロとアルト・サックスの本田雅人が参加しているのが嬉しい。アドリブは、アルト(本田)→トランペット(エリック)→ピアノ(クリヤ)と白熱の演奏を聴かせてくれる。10曲目の(TV End Theme version)は、トリオの演奏である。聴き比べてみるのは、楽しい。今後は、「AWR+ビッグバンド」「AWR+シンガー」など、様々な形態を含んで、「アコースティック・ウェザー・リポート」が、更に進化していくことを期待したい。
(高木信哉)