Makoto Kuriya
OFFICIAL WEBSITE
DISCOGRAPHY
フュージョン界のビッグネーム、ウェザー・リポート世代の名プレイヤー3人が結集し、ウェザー・ナンバーをアコースティック・ジャズでプレイしようと意気投合。本家大本もビックリの新鮮なサウンドが、ウェザー・リポートの魅力を再発見させるプロジェクト。クリヤ、納、則竹の凄腕を生かして無編集DSD録音に挑んだ傑作!
1: Cannon Ball キャノン・ボール
(Joe Zawinul-from『BLACK MARKET』)
2: Elegant People エレガント・ピープル
(Wayne Shorter-from『BLACK MARKET』)
3: Havona ハヴォナ
(Jaco Pastorius-from『HEAVY WEATHER』)
4: A Remark You Made お前のしるし
(Joe Zawinul-from『HEAVY WEATHER』)
5: Palladium パラディアム
(Wayne Shorter-from『HEAVY WEATHER』)
6: Teen Town ティーン・タウン
(Jaco Pastorius-from『HEAVY WEATHER』)
7: Young And Fine ヤング・アンド・ファイン
(Joe Zawinul-from『MR.GONE』)
8: Birdland バードランド
(Joe Zawinul-from『HEAVY WEATHER』)
9: View The World ヴュー・ザ・ワールド
(Makoto Kuriya)
クリヤ・マコト (pf)、納浩一(b)、則竹裕之(ds)
2015年、ジャズ/フュージョン界の第一人者によって結成された通称「アコースティック・ウェザー・リポート」は、1970年代フュージョンの最高峰「ウェザー・リポート」の音楽を、あえて生楽器、それもピアノ・トリオでリアレンジすることにより、元祖「ウェザー・リポート」の魅力を再発見しようというコンセプトで始まりました。当時の電気楽器によるサイケデリックな表現を大胆に削ぎ落とし、最小限の編成で楽曲のエッセンス抽出、濃縮したら見事な楽曲の真髄が浮かび上がるんじゃないか?そんな好奇心からスタート。単なるコピーバンドではないオリジナルな解釈により、ウェザー・リポートのレガシーを受け継ぐ画期的なトリビュート・プロジェクトです。ウルトラハイテクニックが要求されるWRの強烈なナンバーをクリヤがこれまた入魂のアレンジを施し、3人の凄腕ミュージシャンならではの驚異的なヴィルトゥオジティを発揮した手に汗握るパフォーマンスをスタジオで無編集修正皆無の超絶音響DSDレコーディング!高音質をそのまま自宅のシステムに送り届けることが可能なハイブリッド・ディスクでの発売。無編集のDSDサウンドのすごさを体験してください!
「アコースティック・ウェザー・リポート(AWR)」は、2015年5月に結成された素晴らしいバンドである。メンバーは、クリヤ・マコト(ピアノ)、納浩一(ベース)、則竹裕之(ドラムス)という日本が世界に誇る名プレイヤーが集結。コンセプトは、1970年代フュージョンの最高峰バンド“ウェザー・リポート”の音楽をあえて生楽器、それもピアノ・トリオで、現代にフィットさせる形で提示することだ。当時の最先端の電子楽器グループである“ウェザー・リポート”を、最小限のトリオで表現するという挑戦は大変なことだ。AWRは、3回のツアー(2015年5月、11月~12月、2016年4月)を経て、急速に成長と成熟を遂げた。その輝かしい成果がこのアルバムである。こんなに斬新なピアノ・トリオを聴いたことがない。息をのむような素晴らしい出来である。聴き終えると大きな感動に包まれることだろう。また、本作のもうひとつの大きなポイントがDSD録音を決行したことだ。物凄く良い音にビックリされることだろう。AWRは、<1970年から高音質を目指して行われた“ダイレクトカッティング”>同様に、「修正不能な一発録音(DSD)」をした。すなわち「パンチイン+編集」(トラックの中から必要な部分を録り直して上書き)が常識になっている現代にあえて、一発録音すること(しかも演奏素材がとても難しい)は、常日頃の技術面の鍛練と録音時の集中力と度胸が必要。その結果、最高の演奏が最高の音となったのだ。お楽しみ頂ければ幸いである。 AWRのメンバー紹介をする。クリヤ・マコトは神戸生まれで、米国のウエストバージニア州立大学に進学した。米国で現地のミュージシャンたちと深く交流し、日本人離れしたソウルフルな演奏が出来る。近年は海外の活動も大変活発で、日本での忙しい仕事と合わせ、八面六臂の活躍をしている。あのハービー・ハンコックに絶賛された「真の実力」を持ったピアニストである。現在までに18枚のリーダー作をリリース。その内容は多岐に渡り、伝統と未来を融合した多様性を持つ。納浩一は、大阪生まれ。京都大学~バークリー音楽大学と素晴らしい経歴を持つ。アコースティックもエレクトリックも両方上手い。渡辺貞夫を始め多くのアーティストから頼られる引っ張りだこの人気ベーシストである。則竹裕之は、1985年に人気フュージョンバンド“T-SQUARE”に加入し、一躍人気ドラマーとなった。以来ずっと第一線で活躍中だ。あのフィリップ・セスに「日本トップのドラマー」と言わしめた実力派ドラマーである。 さて「ウェザー・リポート(WR)」は、1970年秋、マイルス・デイビスのバンドを退団したサックス奏者のウェイン・ショーターとキャノンボール・アダレイのバンドを退団したジョー・ザヴィヌルが結成したスーパー・グループ。つまり最高の楽器表現者であるウェインと最高の作編曲者ジョーが作った。ウェインは、マイルスのバンドで演奏していたような長々としたソロを止め、簡潔で無駄のないソロや間接的な表現を多用するようになった。一方ジョーは、所狭しとキーボードやシンセを並べ絶え間なく忙しく手を動かした。両者の間(やがてバンド全員)には緊密な相互作用があり、WRの演奏はソロと伴奏の区別のつかないものがある。「私たちの演奏はソロであるがソロでない」というジョーの名言が残っている。WRは、15年間活動し、16枚のアルバムを残し、世界中から愛された。いまなおウェザー・リポートを受け継ぐバンドは出現していない。しかしながら、今、ここに、正統に受け継ぐアコースティック・ウェザー・リポートが日本から誕生したのだ。 ウェザー・リポートの評価は、時が経つほどに高まるばかりだ。今も世界中に根強いファンが多くいる。彼らのキャリアの中でも最も輝いていたのが、“最強”と称された1976年~79年のWRで、ベースのジャコ・パストリアスが在籍していた。本作にはウェザー・リポートの楽曲は全部で8曲収録されているが、ほぼこの時期から選曲されている。具体的には、アルバム『ブラック・マーケット』(WR通算7作目)からは「キャノン・ボール」(①(1曲目のこと))と「エレガント・ピープル」(②)の2曲。『へヴィー・ウェザー』(通算8作目)からは、「ハヴォナ」(③)、「お前のしるし」(④)、「パラディアム」(⑤)、「ティーン・タウン」(⑥)と「バードランド」(⑧)の5曲。『ミスター・ゴーン』(通算9作目)から「ヤング・アンド・ファイン」(⑦)の1曲である。またウェザー・リポートのアルバムの中では、『へヴィー・ウェザー(悪天候)』は圧倒的な売り上げを誇る。発売後、瞬く間に50万枚も売れた。普通のジャズメンなら、その1/10でも大喜びするだろう。『へヴィー・ウェザー』後、演奏場所が小さなクラブから大ホールに変わった。まさに日の出の勢いだった。この成功は、WRの革新性が遂に時代と合致したことを意味する。従来、ジャズは個人のソロを中心としていた。しかしWRは、バンド全体が生みだす「サウンド」を中心に、ジャズの概念を組み替えていった。 エレクトリック・サウンドとアコースティック楽器の融合、また綿密に作曲された部分と驚異的な即興部分の結合が見事に成功した。WRはジャズ界はもちろんのこと音楽業界に衝撃を与えた。 それではアルバムを聴いてみよう。1曲目の「キャノン・ボール」は、ジョー・ザヴィヌルのオリジナルで、キャノンボール・アダレイが1975年8月8日、46歳の若さで亡くなったときに、彼に捧げて書いた。ジョーはキャノンボールのバンドで10年間働き、有名になった。この曲のクリヤのピアノは、とても美しい。静かに始まり、やがて天上界に辿り着く。その音はまるでやさしく寄せる波のようであり、めまぐるしく変わり続ける世の中を情熱的に生きたキャノンボールのようでもある。クリヤのピアノからはとてつもない情熱が伝わってくる。まったく無駄がなく、これ以上に弾き過ぎてはいけないところでとめている。ドラムスとベースの一体感も申し分なく、このアルバムの価値の高さが1曲目から全開している。「エレガント・ピープル」は、ウェイン・ショーターが書いたドラマティックな曲。クリヤの空から舞い降りてくる天女のようなピアノの音に、則竹のドラムが重なる。やがて納のベースも加わり、爽やかな風の中を駆け抜けるようなテーマが流れる。ソロに入ると、納の高速ベース・ソロ、軽やかなクリヤのピアノ・ソロ。最後は則竹の怒濤のドラム・ソロ。煽るピアノとベース。AWRの類まれな素晴らしい才能が存分に発揮された曲だ。「ハヴォナ」は、ジャコ・パストリアスが書いた曲。この曲は人気が高いが難しい。オリジナルのWRの演奏も珍しく全編完全即興でやっていた。ジャコ、ジョー、ウェインのアドリブが凄かった。こんな曲を演奏するクリヤ、納、則竹たちも物凄い。たった3人でまるでシンフォニーを奏でているようだ。ジャコ・パストリアスに触発されてベースを始めた納のウォーキング・ベース、躍動するアドリブ。この曲も最後の則竹のドラム・ソロが格好いい。「お前のしるし」は、ジョーが書いた曲。アルバム中、最も美しい曲。いつまでも心に残る曲。この曲を知ることは、なにか人生の重要なことに出合ったようなものだ。この曲はジョーとウェインの組み合わせが綺麗だが、ここではクリヤと納がうまく連携して、本家のWRに勝るとも劣らない屈指の演奏を聴かせる。クリヤのピアノ・ソロも涙がとまらないぐらい美しく素敵である。そして納の太くて温かいベース・ソロもとても良い。「パラディアム」は、その名の通り、ニューヨークの52丁目にあるジャズ・クラブに捧げて、ウェイン・ショーターが書いた曲。この曲もテーマが格好いい。元々クリヤのピアノには豊かな表現力が加わっていたが、最近のクリヤはその能力にますます磨きがかかった。更にクリヤ、納、則竹の3人は、見事に融合(フュージョン)している。どれも情熱的でしかも洗練されている。これぞ、WRの精神である。「ティーン・タウン」は、ジャコ・パストリアスが書いた曲。いきなり納が物凄い存在感でベースを弾きまくる。この曲名は、ジャコの故郷フロリダにあるユース・クラブの名前だ。「ヤング・アンド・ファイン」は、ジョー・ザヴィヌルが書いた。『ミスター・ゴーン』から唯一選ばれた曲だ。「ヤング・アンド・ファイン」は素晴らしいコードの連続でサンバのようなリズムを作っている。クリヤは後半を4ビートに変化させて格好いい。これは有名でないが、とても良い曲である。そんな曲に陽を当てるアコースティック・ウェザー・リポートのセンスが嬉しい。「バードランド」は、ジョーが書いた大ヒット曲。チャーリー・パーカーのあだ名を店名にしたニューヨークの有名なジャズ・クラブ。1950年代に隆盛を極めた。前述したウェインが書いた曲名のクラブ「パラディアム」の隣にあった店だ。この曲は、どこか懐かしく明るく、それでいて斬新でもあり素晴らしい。納のベースが効果的である。クリヤのピアノを聴くと軽々と弾いているので簡単そうだが実は難しい。クリヤは乗りに乗ってスイングしまくる。次いで納のベース・ソロも格好いい。後半のアレンジもいい。最後の曲「ヴュー・ザ・ワールド」は、クリヤ・マコトのオリジナルで、BS朝日『いま世界は』のテーマ曲。明るく生き生きとしたメロディは、国際問題に深く切り込む番組の鋭いイメージにピッタリ。ラテン・テイストの爽快な演奏だ。 このアルバムを通じて、ウェザー・リポートの再認識が起こることを願う。そして「アコースティック・ウェザー・リポート」のトリオ活動、圧倒的な演奏に今後も注目していこう。彼らのライブは最高である。ぜひ一度、生を聴きに行かれることをお勧めしたい。
(高木信哉)