Makoto Kuriya
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COLUMN
ウェストバージニアってどんなところ?
ウェストバージニア州はアメリカ東海岸、アパラチア山脈中のド田舎である。美しい山々が連なり、自然に恵まれ、春になるとタヌキやらシカやらがあちこちに現れる。(故日野元彦氏が「そんな田舎にジャズが存在するのか!?」と言ったほどの田舎である。)
しかし一応ジャズは存在した(笑)。実は山の中にいきなり巨大な近代的キャンパスが登場するのだ。いくつかの山に囲まれた谷あいが、丸々大学施設に埋め尽くされているのだ。日本でいえば筑波学園都市のような、緑に囲まれた文教都市が突如現れるんだ。それがぼくの卒業したウェストバージニア大学があるモーガンタウンの町である。音楽家でいえばジョニ・ミッチェルやジョン・デンバーが卒業している。いずれもカントリー・シンガーだが、北部と南部のちょうど中間に位置するこのあたりは、まさにカントリー・フォークが似合う地域だ。ウェストバージニアはジョン・デンバーの有名な「カントリー・ロード」に歌われており、当時はヒッピーの聖地と呼ばれていた。
このあたりは南部が始まる位置にあたるので、周囲には人種偏見を持った人も少なくない。だけど大学のキャンパスがあるこの町にはリベラルな学生やインテリが集まっているため、差別はほとんどない。むしろモーガンタウンに行くといまだにヒッピーが多い。コーヒーショップへ行くと初期のジャミロクワイ風な若者がたむろし、トイレにいけば「マンソンを解放せよ!」なんて落書きが書いてあってドキっとする。ヒッピーのメッカとしての伝統は変わっていないようだ。
冬になるとこのあたりはマイナス30度くらいまで気温が下がり、大雪に閉ざされる。「ボディーガード」という映画を見た方は、ケヴィン・コスナー演じるボディーガード青年がホイットニー・ヒューストン演ずるスーパースターを彼の田舎家へかくまう場面を思い出してほしい。彼が卒業したのがまさにWVU=ウェストバージニア大学という設定だから、あの家はおそらくウェストバージニアあたりだろう。まるで保養地のような田舎でしょ?ぼくと一緒に留学した日本人の中には、田舎生活に嫌気がさして中退した人も少なくない。
だけどぼくは、青春時代を美しい自然に囲まれて送ったことをとても良かったと思っている。ここには四季折々の美しさがあり、自然が厳しいため人々が助け合って生きている。それにピアノ練習室が40個もあって、ぼくは芸術学部の学生でもないくせにここに入り浸っていた。練習室は常に奪い合いだというバークリーなどの名門音楽学校では得られない特権だ。自由に使える譜面をふんだんに揃えた図書館もある。それにアメリカは当時からFM放送が発達していたから、都市にいなくても浴びるようにジャズを聴くことができた。この町と出会ったからこそ、今のぼくがあると思っている。だからぼくはこの地に捧げて、「ウェストバージニアの地平線」(アルバム「The Baltimore Syndicate」収録)というバラードを作った。(写真は40ほどのピアノ練習室を持つクリエイティブ・アーツ・センター。)