クリヤ・マコト/安井源之新 ロングインタビュー
「ジャズ批評」誌のためにジャズ批評家・高木信哉氏が行ったクリヤ・マコト/安井源之新インタビューのフルバージョン。紙幅の関係で掲載できなかった内容を是非お読みください!
アルバム「BRIGHTNESS」アーティスト・インタビュー: 聞き手=高木信哉
前作「RHYTHMATRIX」は2009年7月にリリースされました。2作目の「BRIGHTNESS」はコロナ禍を経て、実に15年ぶりのリリースになります。現在のご心境とRHYTHMATRIXとしての想いを教えてください。
クリヤ:今回、このユニットはどのジャンルに属するのか、どう名付けるとRHYTHMATRIXの音の印象が正確に伝わるかを、源之新さんやスタッフと話し合ったんです。ラテンジャズは近いけどキューバではないし、単にブラジル音楽というのもちょっと違う。いろいろ迷って「スーパー・コンテンポラリー・クロスオーバー・ユニット」という結論に達して、益々わからなくなった(笑)。でもイメージとしてはそういうことなんです。ジャズ、ブラジル、ファンク、クラブなど、ぼくらがこれまでに聴いてきた音楽がクロスオーバーして、思い切りコンテンポラリーです。
15年前に作った前作と基本路線は変わっていないのですが、その後、源之新さんはあちこち海外へ出ていて、ぼくはぼくでコアなジャズトリオやポップスの仕事もやって、ユニットとしてブランクがありました。それでも細々と活動が続いていたのは、海外公演をたくさんやっていたからです。台湾やインドネシア、源之新さんが滞在していたインドでもやったし、ブラジルでは6公演のツアーも行ってジョイス・モレノ(vo)、モニカ・サルマーゾ(vo)、テコ・カルドーゾ(lead)といったブラジルの名プレイヤーたちとも共演しました。だから源之新さんが帰国したとき、迷わず活動再開となりました。
アルバムの内容は、前回も足掛け3年かけてトラックを重ね、凝りに凝って制作しました。今回も同じです。ぼくがやっているトリオ・プロジェクトの「ACOUSTIC WEATHER REPORT」は正反対で、3人がスタジオに入って一発録り、修正すらなし!という緊張するレコーディングなのですが、RHYTHMATRIXは時間をかけていくらでも録り直すし編集もする。やってみたけどこっちの方が良いなあとか、何パターンもキーとテンポを変えて録ってみたりしてなかなか終わらない(笑)。それでやっぱりあっちがいい、こっちがいいとみんなで話し合って、当初2023年4月予定だったリリースが24年1月まで延期になりました。おかげさまで悔いのない、やりたいことをめいっぱい詰め込んだ作品になりました。
安井:私はJAZZを現在の視点から広義に捉えると“Contemporary music based on improvisation”(即興性に基づくコンテンポラリーミュージック)と考えています。国境を越え、人種に捉われず、各々の独自性や多様性をリスペクトした上で音楽家同志が音の対話を行い(インタープレイ)、触発し合い、培ってきた自身の「核となる音」を、即興(Improvisation)を交えながら表現していく。Afro-American以外の音楽家がJAZZに取り組む意義は、そこにあると思っています。またJazz, French, Bossaなどのスタイルやジャンルは、例えるならば「言葉」であり、「その言葉を使って何を表現していくのか?」ということが一番重要だと考えます。 特に我々日本人がJAZZやブラジル音楽を演奏する場合には、モノマネでなく「自身の音の核を拡げ感性を進化させる」のでなければ、作品をリリースする意味を見出せません。
クリヤさんと私はバックボーンで共通するところは殆どありません(笑)。しかし、生き様としての共通点がひとつあります。クリヤさんはアメリカのブラックコミュニティに、私はブラジルに、それぞれ居を移し生半可でなくどっぷりと浸かり、もがきながらも現地でも認められる音楽家としての基盤を築いてきたことです。現在は二人とも日本を拠点に、日本人としての感性を踏まえた上で、それまで自身の中に培ってきた色々な要素をアップデートし進化させながら、「我々にしか出せない音」に挑戦しています。リズマトリックスで演奏する度に二人とも常にチャレンジし、音を磨いてきました。その積み重ねがこのアルバムです。アルバム録音に際しては、コンセプトを明快に定め、曲毎に最適な素晴らしいメンバーを招聘し、こだわり抜いて仕上げています。
また、ワールドツアーで磨きをかけたオリジナルと共に、超スタンダード曲が4曲入っていますが、これはクリヤさんがその真価を世に問う、渾身の超絶アレンジです。いずれもボーカルが入り、このアルバムの最大の聴き処です。
リズマトリックスのミッションは、世界中の人にポジティブなベクトルを提供し、とにかく楽しんでもらうことです。JAZZファンだけでなく、全ての人々に聴いてもらえることを願っています。
1曲目の「5 Spot」は、安井さんのオリジナルですね。曲の説明と聴きどころを教えてください。
クリヤ:源之新テイストのナンバーで、ライブでメチャクチャに盛り上がる曲です。変拍子の疾走感と、独特のキメが錯綜してソロがバリバリに展開します。
安井:変拍子好きな私の曲です。カオスなる大渋滞の中、車同士がクラクションで会話し、聖なる牛とリクシャー(3輪バイクタクシー)が縫うように絡み合い遅々として進む喧噪の大地インドに着想とエネルギーを得て作った曲です。5X4+4+4のイントロから始まり、2ビートで疾走しサビの5拍子で迷宮に入り最後は大曼荼羅と言った構成です。
ハードボイルドでワケわからん曲がこのアルバムにも1曲あっても良いかと(笑)。この手をやらせれば鉄壁のリズム陣(納・ダニエル・源之新)、何と言ってもクリヤさんのRhodesの音色と縦横無尽で卓越したソロが近未来を感じさせます。
2 曲目の「BRIGHTNESS」はアルバムのタイトル曲で、クリヤさんのオリジナル曲でもありますね。曲の由来と聴きどころを教えてください。
クリヤ:かなり前に、「Live Love ひょうご」というNHKローカルニュース番組のテーマ曲として作曲したものをベースに録り直しました。なのでズバリ一日のニュースを振り返る、でも暗いニュースに負けないようなエネルギーを感じてもらうイメージで作りました。テコ・カルドーゾのフルートをフィーチャーしています。他のインスト曲と同様に、コンテンポラリーでありながらも音楽が最も豊かだった時代のレトロな雰囲気を同時に表現したいと思って編曲とミックスをやりました。
安井:冒頭のクリヤさんピアノとユニゾンで吹き上げるテコのフルート、ダニエル、納、源之新の疾走するリズム隊に乗って爽快に舞い上がる曲です。よくライブでオープニングに使われます。
3曲目の「Lucky 88」はインタールードとのことですが、アルバムの中に3曲のインタールードが入っています。こちらはどのような位置づけなのですか?
クリヤ:ちょっと一服、という感じでインタールードを3か所作りました。源之新さんがベーシックのリズムを作ってくれて、その上でぼくが自由に遊ばせてもらっています。そういう部分でもブラジル系パーカッションの面白さを堪能していただけると嬉しいです。源之新さんはパンデイロという楽器の世界的な名手ですが、この楽器はライブで目の前で見るとさらに奥深くて面白い。アルバムを聴いてくださった皆さんは是非ライブに来て、リズムと歌とピアノとハーモニーの様々なコンビネーション、心地よい音の大波を体験していただきたいと思います。最初は音の洪水に聞こえるかもしれませんが、すぐに気持ちよく乗りこなせるようになると思います。
実はアルバム制作と並行して、ぼくは「Me? Xavier!」という映画のサウンドトラックを制作していました。この主人公がポルトガル人宣教師だったりして、思い切ってRHYTHMATRIXで音楽をやることにしました。この映画はミュージカルで、歌唱楽曲はぼくが書き下ろしましたが、作品全体にこのインタールードの一部が流れています。またエンディングテーマは、「Brightness」を元に新たに書き下ろした曲をKOTETSUくんに歌ってもらいました。ライトなコメディ・ミュージカルですが、もし機会があったら是非ごらんください。
安井:インタールードは3つ入っています。私は練習がてらほぼ毎日1~2分のリズム小編ジングルを録音していますが、その中からの選り抜きです。
・Lucky77:これを聴くとアナタに良いことが起きます。スマホに仕込んで目覚まし代わりにどうぞ。
・Lucky88:Lucky77の生ピアノバージョンということで、88鍵なので88です。
・Take OFF:一日の始まりに聴き、離陸し宙に舞い上がるイメージを。元気に今日も飛びましょう。
4曲目の「Passando」は、クリヤさんのオリジナルですね?ブラジル生まれのマルセロ木村さんをフィーチャーしていますが、曲のいきさつと聴きどころを教えてください。
クリヤ:これはもともとソロピアノのナンバーで、パリのパサージュをイメージして作った曲です。RHYTHMATRIXはついついテンションの高いアップテンポの曲ばかりになってしまい、何かバラードをとなったところでブラジルのスタンダードも考えたのですが、オリジナルにしてみようと考えて、このユニットに合うんじゃないかと再発掘してきました。歌を入れたいなあと思いついて歌詞を発注したのですが、その際に間に入ってくれたマルセロが仮歌を入れてくれて、それがあまりにも良かった!スタッフ全員気に入ってしまい、正式にマルセロにお願いすることとなりました。
安井:クリヤさんの作曲やアレンジはもとより、ロンドン在住のブラジル人作詞家Bruno Tassoの秀逸な歌詞とMarceloの声とギターが沁みるスローボッサです。この曲は、テンポやキーを何回も変えて試行錯誤しており、Marceloにとっては少し高いキーとはなりますが、甘く切ないこのVoiceが曲想(別れ)にマッチし、見事に歌い切っています。
5曲目の「I Can Recall Spain」は、2021年2月に79歳で亡くなったチック・コリアの代表曲です。ジャズに拘らず活動したチックは、クリヤさんの活動にも繋がるものがあります。フィーチャーしているKOTETSUは、クリヤさんのアドリブコンテスト2011の優勝者ですね。聴きどころを教えてください。
クリヤ:ぼくらジャズメンは、そりゃあもうあちこちでこの曲を演奏するんですよ。みんながカバーしているし、めちゃくちゃ盛り上がるし、メインストリームとコンテンポラリーの架け橋にもなるような作品です。それであちこちで演奏するうちに、ぼくならではの解釈で最高にカッコいいアレンジにできないかなあと、ちょっとずつ編曲していった完成形が今回の録音です。もちろんいろんな方が独自の編曲をしてアレンジ合戦にもなっているわけですが、その一つの形として是非多くのファンの方に聴いていただきたいです。自分らしさで言うとやはりハード・スウィングを盛り込んだ点やボイシング、さらにKOTETSUの技術を見込んでコーラスパートを入れてもらいました。アル・ジャロウを超えろ!という勢いです。
安井:もの凄く緻密なアレンジとエネルギーが込められている曲です。星の数ほど録音されてきたこの曲をいまさらリズマトでやる意義は、クリヤさんのこのアレンジにあります。また、KOTETSUのスキャットとアカペラコーラスには耳を奪われます。リズムに関しては、所謂普通のキューバラテン形式にはならぬよう、パンデイロによるコンゴというリズムを核としながらも、パートによってスタイルを一変させ、細かいパーカッションを随所に重ねています。納さんの確個としたグルーヴのエレベを軸に、則竹さんの怒涛のドラムが入りシンクロされ、宇宙の星のような幾層にも重ねたリズムの粒が舞い上がります。録音開始からほぼ2年を費やした大曲です。力強いクリヤさんのRhodesソロも聴きものです。
6曲目の「Sunday’s Sun」はクリヤさんのオリジナルですね。曲の由来と聴きどころを教えてください。
クリヤ:これも同じくNHK「Live Love ひょうご」の挿入曲として作曲したものです。ゆったりして派手ではないのですが、ライブでもなにか異様に盛り上がる曲。ぼくらの青春時代の証というか、60~70年代ぐらいの本当にポピュラー音楽が豊かだった時代のテイストを盛り込みたかったんです。ボサノバが勃興した時代でもあり、ジャズの文脈でも新しいサウンドがどんどん生まれていた時代へのトリビュートですね。この時代からクロスオーバー、ファンク、フュージョン、クラブ…と、ぼくらが生きてきた時代をアルバム全体に反映して、独自のRHYTHMATRIXサウンドを表現しています。
安井:ちょっとフェイザーがかかったエレピを軸に、唯一無二であるマサ小浜のファンクギター・バッキング、鳥越啓介のメロディアスなベース、包み込み高揚し時には一音をユニゾンで全員でひたすら弾き続けるクラッシャー木村ストリングス、メロディーやソロを彩る中村恵介のフリューゲルホーン。音のおいしさがいっぱい詰まっています。タイトル通り日曜日にリラックスして味わえる曲です。
次の「Agua de Beber」はアントニオ・カルロス・ジョビンの名曲で、セルジオ・メンデスやアストラッド・ジルベルトなど多くのカヴァーがあります。2015年のブラジル公演で共演したモニカ・サウマーゾが歌っていますね。
クリヤ:モニカは現在ブラジルで最も評価の高いシンガーで、太くて優しい独特の歌声が素晴らしいアーティストです。ご自分の作品では、コンテンポラリーで誰にもまねできない美しいオリジナル曲などを歌っているのですが、今回RHYTHMATRIXからのわがままなお願いでスタンダード中のスタンダード曲を歌っていただきました。
安井:冒頭のクリヤさんのRhodesのアプローチから、どんどん変化するバックアレンジに応じ見事に歌い上げるモニカは、現在のブラジルを代表する至高の歌い手です。エレベに持ち替えた早川哲也のうねるベース、ドラムの大槻カルタのファンクビートにも支えられ、リズマトリックスらしい「おいしい水」となったかと思います。
9曲目の「Lush Life」は、デューク・エリントン楽団の座付き作曲者ビリー・ストレイホーン(「A列車で行こう」も書いた)が書いた名バラードです。RHYTHMATRIXで演奏するのは不思議な感じがしますが、どう料理されたのかを教えてください。
クリヤ:これは、以前KOTETSUくんと一緒にライブをやっていた頃アレンジしたもので、自分でもこだわって編曲したので一度記録に残しておきたかったんです。「SPAIN」で彼の起用を決めた際に思い出し、この機会に是非歌ってもらおうと思いました。まさに名曲です。メル・トーメによればストレイホーンが19歳のときに作ったそうで、天才なんですよね。高度なハーモニーを生かしてさらに手を加え、最初のコーラスは低音からスタートし、間奏後にはオクターブ上がるという技術がないと歌えないアクロバティックなアレンジは、もともとKOTETSUのために作ったものです。
安井:世に知られたスタンダードをアルバムに入れるということは、大変な覚悟と自信が必要です。クリヤさんの突出したアレンジ力とリリカルなピアノ、クラッシャー木村ストリングスの素晴らしいオーケストレーション、大槻カルタの包み込むようなドラムと早川哲也のよく謳うアコースティックベースも聴き処です。
10曲目「JABRA」は安井さんのオリジナル曲ですが、タイトルはどういう意味ですか?聴き所など教えてください。
クリヤ:源之新さんの十八番、テーマ曲のような曲です。彼の音楽のモチベーションや方向性が全部詰まっているように思います。ブラジルを代表するマルチ・リード奏者の、テコ・カルドーゾをフィーチャーしています。
安井:「JAPAN+BRAZIL」の造語で、国境を越えた音楽家とのコラボレーションを表す意を込めています。本アルバムはアメリカ、ブラジル、フランス等、多国籍的要素が散りばめられています。「日本とブラジルの架け橋」との意も含んで名付けたものです。
この曲はブラジルのカーニバルを彩る楽器にTamborim(タンボリン:タンバリンとは別の楽器)というハンドドラムがあるのですが、その強烈な音とグルーブをモチーフとしています。当初の曲名は「突撃!タンボリン隊」でした(笑)。
元々はシンプルなコード進行ですが、クリヤさんが練り上げた変化に富んだコードアレンジの上に、渡辺貞夫さんのサポートでも活躍するギターのマルセロ木村とドラムのダニエル・バエデールの強烈なグルーブ、日本代表選手である納さんのベースががっぷり四つに組み、ブラジルのテコ・カルドーゾのフルートが絡みます。テコはブラジルのジャズ&フュージョン界を支えてきた大いなるレジェンドです。メンバーが一体となって疾走するドライブ感を味わってください。ライブでは曲間に「放し飼い」という私のパンデイロソロがありますが、ここでは短く5連符をベースとしたダニエルとの打楽器間奏を挟んでいます。
12曲目の「Un Homme Et Une Femme」(映画「男と女」より)は、フランシス・レイが作曲した有名な主題歌です。これも意外な選曲ですが、ミシェル・ルグランのご子息のバンジャマン・ルグランが歌っていますね。
クリヤ:ぼくの古いお友達のVieVieさんとバンジャマンに歌ってもらいました。シャンソンで他の曲と毛色が違いますが、こういう軽やかに一服という場面が欲しかったんです。VieVieさんは以前大ヒットした某プロジェクトの覆面ボーカリストだった方で、ラジオDJやフランス語のナレーションでもご活躍です。バンジャマンはパリで何度か共演して以来のお付き合いで、リラックスしたパリらしいジャズシンガー。リモートで録音したものを編集したのですが、本当のカップルみたいないいムードに仕上がりました。
安井:この曲もVoを含め膨大な録音トラック数をまとめ、緻密にアレンジされています。打ち込みのようなFunk Beatは、実は一部を除いて生楽器で構成されています。バンジャマンの素晴らしいVoソロをバックにVieVieのフランス語のナレーション部分も聴き処のひとつです。
次の「Jive Love」は、クリヤさんのオリジナルですね。曲の由来と聴きどころを教えてください。
クリヤ:今回のアルバム用に書き下ろしました。グルーヴが気持ちよく、明るくすっきり盛り上がるインストナンバーを入れたいなと思って書いたものです。実は別の用途で作曲したジャズワルツをベースにしているのですが、ジャズワルツは最終的にアルバム全体のテイストに合わず却下。でもメロディとコードの持ち味が捨てがたく、思い切って別のファンクナンバーに仕上げました。今回いろいろな曲で、クラッシャー木村にお願いしたストリングスがエッセンスになっています。この手の曲にストリングスが入ることによって、ほかの楽器も全員わくわく盛り上がります(笑)。
安井:とにかく楽しくワクワクする、弾けるリズマトリックスらしい曲です。
最後の曲「Berimbauビリンバウ」は、バーデン・パウエル(2000年に63歳没)の名曲です。前作「RHYTHMATRIX」にも入っていて、「あの力強いイントロ」がカッコ良くてびっくり仰天しました。再収録とは、クリヤさんの推しですか?フィーチャリングの上田裕香の声も力強く曲にピッタリですね。
クリヤ:前作「RHYTHMATRIX」にも収録した曲ですが、このユニットの特徴を表している楽曲で、随分時間もたっているので再録音しました。前回はサイゲンジが歌ってくれたのですが、今回はレギュラーでライブで歌ってくれている裕香ちゃんを起用。ド迫力のバックトラックに負けないパワーを見込んでの起用です。源之新さんは素晴らしいブラジル系ユニットでいっぱい活動しているのですが、このコンテンポラリーなクロスオーバーはRHYTHMATRIXならではです。
この曲はブラジルツアーでジョイスとモニカにも歌ってもらいました。二人ともこんなアレンジでビックリしたと思うのですが、特にジョイスと合わせたときは、事前の打ち合わせ一切なしで、目を閉じて全身でリズムと音を感じて、スポンテニアスにその場で湧き出してくるエナジーをストレートに投げ出してくれて素晴らしかったです。感動しました。ブラジルツアーは、日本人の勝手な解釈でいじくりまわした音楽をわかってもらえるのか、通用するのかと不安な気持ちで行ったのですが、ふたを開けてみたら6公演すべてで熱烈なスタンディングオベーションをいただき、それもめちゃくちゃ感動しました。
安井:初っ端からのクリヤさんの強烈なアレンジとビートにより生まれ変わった、超スタンダードナンバーであるビリンバウ。今回は上田裕香のVoをフィーチャーしています。パーカッションにも変化をつけているのですが、何といってもベースの高橋佳輝が斬新なアプローチを行いダンサブルに曲を盛り上げています。
ブラジルツアーに関しては、私は微塵も不安感は持っていませんでした。超一流の遠征メンバーに加え、ブラジルミュージシャンとオーディエンスの何でもありの自由な感性は良いものを全て受容れてくれる土壌です。何よりも私は、何年にもわたりブラジルでしっかりとやってきた自負がありましたので。
3年越しの大作ということで、お二人の思い入れをたっぷり聞かせていただきました。RHYTHMATRIXはこれまで海外での活動が中心でしたが、このアルバムを機に日本の音楽ファンの皆さまにもお聴きいただき、是非多くの方にライブも体験していただきたいと思います。ありがとうございました。